2025年4月、日産自動車は過去最大規模となる7500億円の赤字を発表しました。
かつて1999年の経営危機、そしてカルロス・ゴーン氏によるV字回復を遂げた日産ですが、今回はそれ以上に厳しい状況に立たされています。
今回は、赤字の要因と今後の展望、そしてそれでもなお未来に期待できる理由について解説します。
なぜ過去最大の赤字7500億円に至ったのか?
まず、今回発表された7500億円という巨額赤字の背景には、複数の要因が絡み合っています。
- 中国市場の不振に伴う工場撤退・資産減損:約2000億円
- 米国市場での販売奨励金(インセンティブ)増大:約1000億円
- EV開発費用の先行投資:約800億円
- 為替差損やサプライチェーン再編コスト:約500億円
- その他リストラクチャリング関連費用:約3,200億円
単なる売上不振ではなく、「未来への投資」と「過去の清算」を同時に行った結果、7500億円という歴史的な赤字となったのです。
中国・武漢工場撤退の影響と、なお残る生産過剰問題
今回の7500億円赤字の中でも、象徴的な出来事が中国・武漢工場の撤退です。
日産は武漢地区にあった合弁工場(東風日産武漢工場)からの完全撤退を決断しました。
背景には、以下の事情があります。
- 中国国内のEV競争激化により、日産のガソリン車・旧型EVの競争力が急低下
- 武漢地区のサプライチェーン不安定化
- 現地販売台数の急減と、それに伴う生産稼働率の低下
これにより、土地・設備売却損や工場閉鎖関連コストが発生し、赤字拡大につながりました。
しかし、武漢工場を撤退した後でも、日産の中国生産体制はなお過剰なままであるという事実です。
現在、日産は中国国内に4つの主要生産拠点を残しています。
(広州、鄭州、常州、襄陽の各工場)
これらの工場も、
- 稼働率の低迷(50〜60%台にとどまる拠点も)
- 市場シェア縮小傾向
- EV対応への遅れ
といった課題を抱えており、生産能力の過剰感は依然として解消されていません。
このため、業界内では、
「今後さらに他の工場も縮小や撤退の対象になる可能性がある」
とする見方も根強くあります。
特に、鄭州工場や襄陽工場など、比較的小規模で稼働率の低い拠点は、今後の市場環境次第ではリストラ対象に含まれるかもしれません。
つまり、武漢工場撤退はあくまで「第一弾」にすぎず、中国事業全体の大幅な再編が今後も続く可能性が高いということです。
直近株価に見る「市場の本音」
注目すべきは、7500億円という過去最大級の赤字発表にもかかわらず、日産株が大きく下落しなかった点です。
むしろ、発表直後は一時的に売られたものの、すぐに持ち直し、堅調な推移を見せています。
これにはいくつかの理由が考えられます。
悪材料の織り込み済み
すでに日産の厳しい業績はマーケットでも十分に予想されていました。
事前に「数千億円規模の赤字になる」という観測が広がっていたため、赤字そのものにサプライズがなかったことが、株価の下支え要因となりました。
「痛みの先取り」と「改革本気度」への評価
今回の赤字は、単なる業績不振だけでなく、
- 在庫減損
- 工場撤退コスト
- リストラ費用
- 先行投資
といった「将来に向けた痛み」を一気に計上した側面が強いです。
これを受けて市場では、
「これで負の遺産を一掃できるのではないか」
というポジティブな見方も広がっています。
つまり、未来の成長に向けた「膿出し」として評価されているのです。
リバイバルプランへの期待感
さらに、日産が発表したリバイバルプランに対して、
「本気で収益改善を目指している」という評価が広がりつつあります。
特に、
- 生産拠点の再編
- モデルラインナップの大胆な見直し
- EVシフトへの集中投資
といった施策は、市場が求めていた方向性と一致しており、将来的な収益改善のシナリオが描きやすくなったと見られています。
リバイバルプラン始動。アメリカ戦略も再構築へ
日産は現在、リバイバルプランを実行に移しています。
主な施策は以下の通りです。
- 採算の取れない車種・市場からの撤退
- EV・ハイブリッド開発への集中投資
- グローバル生産体制のスリム化
- ルノー・三菱とのアライアンス強化
特に注目されるのは、アメリカ市場での生産戦略の見直しです。
日産は本来、コスト高を背景に、北米現地生産を縮小していく方針を模索していました。
しかしここにきて、トランプ経済の再来が現実味を帯びてきたことで、「現地生産の維持・再強化」に路線変更を余儀なくされてしまったのです。
日産の具体的な対応策
- 北米工場(ミシシッピなど)の生産効率アップ
- 高収益なSUV・EVモデル中心の生産ライン再編
- アメリカ専用EVクロスオーバー開発加速
- 北米現地サプライチェーン強化(バッテリー含む)
これにより、収益性の高い北米ビジネスモデルの再構築が期待されています。
まとめ~2000年代の復活劇に重ねて。今回も名車誕生に期待!~
ここで、ひとつ思い出したいのが2000年代初頭の日産復活劇です。
破綻寸前から、
- スカイラインV35
- フェアレディZ(Z33)
- 初代ムラーノ
- 初代エクストレイル
- 初代ティアナ
といった名車たちを世に送り出し、世界を驚かせた日産。
あの時も、「生き残りをかけた本気のクルマづくり」が評価され、日産ブランドの再興へとつながりました。
そして今回もまた、新型エルグランドや次世代リーフ、さらには新しいグローバルEVの登場が予告されています。
危機の中からこそ、また新たな名車たちが生まれるかもしれません。
日産は、7500億円という過去最大の赤字を発表しました。
確かに厳しい局面に立たされていますが、同時に本気の改革と未来への種まきが動き始めています。
かつて2000年代に名車を連発して復活したように、次の名車誕生を信じ、日産のこれからを静かに、そして熱く見守りたいと思います。
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